近時、高層ビル建設や大深度地下工事などの建設工事や地下構造物建設工事に伴って、掘削した地下やシールド工法の現場で地中ガスが工事の障害になる例が増加していますが、この原因になる危険なガスには、メタンなどの可燃性ガス、酸素欠乏ガス、硫化水素、一酸化炭素などがあります。1993年に東京都江東区でシールドトンネル掘進中にメタンガスの爆発事故がありました。これは地下圧により過飽和に溶存した可燃性ガス(メタン)を含んだ湧水がシールド工法の掘削部と推進部の間のセグメントからシールド内に流れ込んでここで大気圧に解放されたことにより、ガスが大量に気化して装置内の電気設備で引火、爆発して作業員4人が死亡したものです。また、2007年6月には地下での事故ではありませんが、渋谷区の温泉施設で汲上げた温泉水に溶けていた天然ガス(メタン)の気化、爆発による死亡事故がありました。
2001年に「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」が施行されて大都市圏での地下の公共工事が容易になりましたが、特に過密都市である東京は一方で地下に「南関東天然ガス田」と呼ばれる水溶性ガス田があるので、地下工事には酸欠ガスや有害ガスのほかに天然のメタンガスによる危険が大きいところです。
東京都は江東区での事故の後「可燃性ガス調査指針」及び「可燃性ガス対策設計指針」を定め、これを受けて、メタンガスの基礎知識、ガス爆発防止のための基準、ガス調査方法等について「シールド工事におけるガス爆発事故防止の手引き」を作成しています。
地下構造物、特に道路・鉄道トンネル工事や下水道・水道工事で地中を掘り進むシールド工法等ではいくつもの地層を通過します。特に帯水層上部の不透水層が湾曲した部分では加圧され、飽和した地中ガスが大量に存在することがあります。上記の「設計指針」ではシールド工法設計時の検討事項として、工事場所の危険度ランクを次のように定めていて、Ⅰ.地層、地域 Ⅱ.溶存ガス濃度測定値 Ⅲ.トンネル位置 の各評価度から定まる判断区分A,B,C,Dのランクに応じた安全対策として、防爆仕様工法、検知・警報装置、ガス管理責任者、換気設備、防爆型電気機械器具、電源遮断装置などの設置・採用を重要なファクターとしています。
この指針のように、地下工事の設計・施工に当たっては還元性地層等の特性の調査とともに、事前に主として地下水面以下の深度の地中ガスの存在状況の調査が不可欠ですが、地中ガス調査ではボーリング孔での噴出ガスだけでなく、地下水中の溶存ガスや不撹乱土壌を採取して分析するコアガスも調査しなければなりません。これらの調査ではべーラー等の安易な方法で地下水やガスを採取すると、地下は地上とは圧力等の物理的条件に違いがあるので正確な測定ができず、特殊な採取装置と専門技術が必要となります。
地中ガスは地下水面より下にあっては地下水中に溶存している場合と、遊離ガス化して存在している場合があります。一般に遊離ガスは、粘性土層がキャップになった下位の砂質土層や砂礫層などの帯水層に加圧されて存在していることが多いのです。このため、地下の物理的な状況を保存したままでサンプルを採取することが正確な調査の絶対条件となります。当社では従来から独自にサンプル採取技術と採取装置を開発して調査・測定を行っていたので、前記の東京都の「手引き」のガス調査方法の作成について協力し、地下水サンプル等の採取方法や採取装置がこれに採用されていますので、この方法について簡単に紹介します。
1.調査項目
ボーリング孔による地中ガス調査は、次の項目について図の流れに従って行います。
2.調査孔の設置
ボーリング地点はシールド通過進路等に沿って立坑位置、地層分布を考慮して決定し、深度はシールド通過予定位置下10mまでの地層構成を考慮して決定します。
3.現地ガス調査
・孔口ガスの測定(地層遊離ガスの有無の確認)
ボーリング直後のガスの噴出を確認して、噴出がある場合には可燃、有害ガスの簡易測定を行い、その後採気します。圧力も流量もない場合にはポンプで強制採気します。
・地下水溶存ガスの測定
地下水をそのまま地上に汲上げると、溶存ガスが地下水圧から開放されて気化し、地下水中の含有量が変化するので、地下水の採取は地下圧のまま密閉状態で地上に取り出す必要があります。この方法には①気液分離法(地下水位保持法)、②同圧採取法(地下水位保持、圧力保持採水法)、③原位置採取法(BAT法) があり、①は、ボーリング孔から細口径揚水ポンプを下ろし、必要により大気圧を遮断して地下水位を維持しながら地下水を汲上げて、揚水ポンプ配管に接続された気液分離装置内で大気圧に開放して溶存ガスを気化し、これをテドラーバックに採取して室内分析にかけます。気液分離装置に入る直前の水の分析とあわせて全溶存ガス量を求めます。
②は、地上からのリリースバルブ操作により、採水器内を採水深度の地下水圧以上にヘリウムで加圧してボーリング孔から採水器を調査深度まで下ろし、深度に相当する地下圧で地下水を採水した後引き上げて地下圧と同圧の状態でテドラーバックに採取します。このとき、通常のべーラー等の圧力保持をしていない採取器で地下水を採取すると、地上に上げる過程で大気圧(常圧)となり溶存ガスは放出してしまい、地中での飽和状態を測定することができません。
③は、地下水溶存ガスと土層中の遊離ガスの採取に使用できるもので、ガス採取部の先端部をボーリングパイプの先に接続し、測定深度の地中に設置します。次に下端を密封してヘリウム置換し脱気したサンプル容器を地中に入れて、注射針によって先端部に入った地下水をこの容器に吸入させ、地上に引き上げます。
各々の方法は、地層の状況、地下水の量、深度等の特性や数段階の深度での採取など、状況に応じて使い分けられます。
・コアガスの採取
透水係数が小さく、ボーリング孔内に地下水が流入しにくい粘性土層中の地中ガスを調査対象とする場合には土壌のコア試料を採取し、コアに残存するコアガス分析を行います。コアガスは地下水中のガスほどには圧変動などで移動することがないので、コアの採取には通常不攪乱土壌採取用のサンプラーを用います。
4.室内ガス分析
地中ガスは、遊離ガス、気液分離槽ガスについては直接テドラーバックに採取し、試験室に持ち帰り、ガスクロマトグラフ法により組成、濃度分析を行います。テドラーバックに採取した地下水は湯煎等で加温して溶存ガスを分離させ、また、コア試料も装置でコアガスを分離させた後、ガスタイトシリンジで分離ガス量を測定、そのままガスクロマトグラフで組成と濃度分析を行います。
5.地中ガス調査結果の評価
調査結果を次の項目に整理し、評価します。
・ ボーリング孔における
・ 溶存ガスの飽和度の算定(分圧算定、遊離または溶存ガスの判定)
・ シールド工事における地中ガス発生量算定、換気量算定等
○地中ガスの発生機構
・ メタンガス
地層中のメタン(CH4)は、還元性地層中の有機物が嫌気性バクテリアによって分解されて発生すると考えられています。無酸素水の浸透する地下深部では還元性雰囲気での腐敗分解が起き、次のような反応によって地中ガスが発生します。
有機物 → CO2+H2O+CH4+H2S+NH3
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(嫌気性バクテリア)
・ 酸素欠乏ガス
酸素を消費するFe2+などの還元性物質が含まれている地層中に空気が入り込むと、これらの物質は次のような反応を起こして空気中の酸素を消費し、その結果酸素欠乏ガスが発生します。
Fe2+ +1/4O2+2H+ →Fe3+ +1/2H2O(第一鉄イオンの例)
・ 硫化水素ガス
硫化水素(H2S)はメタンガスと同様の嫌気性分解によって生成されます。
・ 一酸化炭素ガス
一酸化炭素(CO)は主に燃料などの炭化水素の不完全燃焼によって生じるもので、以前は都市ガスの主要成分だったので地下配管からの漏洩に注意が必要でしたが、現在では地下工事の工事用エンジンの不完全燃焼から発生します。
CnHm+O2 →CO2+CO+H2O
(図をクリックすると拡大表示します)