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■福島徹二の環境豆知識
規制基準の種類と内容 2
―総量規制基準等について―
前記1.の濃度規制基準は排出される煙や汚水中の汚染物質の割合の施設ごとの基準(濃度)なので、大型の施設では基準以下であっても大量の汚染物質を排出することになります。また、ある地域のすべての施設が基準を守っていても工場等が集中すればその地域の排出総量は増え、汚染が進行します。そこで、このような地域では排出される煙や汚水の濃度(ppm、mg/l)ではなく、排出される汚染物質の量(m3N/時、m3/日)を規制する必要があります。
このため、大気汚染防止法では法制定当時に汚染が激しかった硫黄酸化物については濃度規制ではなく、煙突からの煙の拡散に着目して地域の環境濃度を一定以下に抑えることを目指して、施設ごとの排出量を規制する「K値規制」が採用されました。その後、汚染が進行した地域や水域を特定してその環境基準の達成を目的として、工場全体からの大気汚染物質や水質汚濁物質の排出総量を規制する「総量規制基準」が定められました。
○ K値規制
この規制は、高い煙突から勢いよく排出される煙は地上に達するまでに拡散希釈されて、その濃度が薄くなる(地上への影響が小さい)という大気拡散理論に基づいた規制方式で、大気汚染防止法施行規則第3条に数式1)で示されています。
この式によれば、硫黄酸化物排出量は @煙突の高さ A煙の温度 B排出される煙の速度 などから計算される「有効煙突高」が高いほど(その高さの二乗に比例して)多くでき、低いほど少ない量にしなければならないことになります。また、規制式の中に係数K(「K値」という)があり、この値を全国の硫黄酸化物の汚染状況に応じて変えて、工場等が集中し汚染が進行している地域ほどKを小さく定めることによって、その地域の排出総量を削減するものです。
この規制は昭和43年の法制定当時の硫黄酸化物の深刻な汚染状況と、一方で低硫黄燃料の確保の困難さ等を踏まえて、単純な濃度規制ではなく高煙突であれば地上への影響が少ないので硫黄酸化物を多く排出できるという合理的な規制方式を導入したものです。さらに地域別に定める「K値」は逐次強化されてきました。
現在「K値」は地域によって3.0から17.5の範囲で定められていますが、「特別排出基準」として最も厳しい「K値」は1.17です。このため、煙突の高さなどの条件が同じであっても汚染が進んだ地域の施設はそうでない地域の約1/15しか硫黄酸化物を排出できないことになりますが、これでも環境基準の達成が困難な地域については次の「総量規制」が実施されています。
なお、この「K値規制」は煙突が高いほど工場等にとっては有利なので各地で100mから200mの高煙突が競って設置されましたが、汚染物質を拡散させているだけであるとして当時、一部から「高煙突拡散主義」と言われました。
1) q = K×10−3He2
q : 排出が許容される硫黄酸化物の量(m3N/時)
K : 設置地域ごとに大気汚染防止法施行規則別表第1及び同規則第7条1項に定める値
He : 補正排出口高さ(有効煙突高)(m)
He=H0+0.65(Hm+Ht)
H0 : 煙突の実高さ(m)
Hm = 煙の排出量と排出速度から計算される値(数式は略)
Ht = 煙の温度などから計算される値(数式は略)
○ 総量規制基準
ある地域の環境を保全するためには、その地域の特性に基づいて定まる一定の限界排出総量である「環境容量」を超えてはならないという考えがあります。「総量規制基準」は、いわばこの環境容量(地域の排出総量の限度)を求めてこの総量を地域の各工場等に個別の排出許容量として割り振って、この許容量を規制基準とするものです。現在、「総量規制基準」は前記の濃度規制基準等だけでは環境基準の確保が困難な地域や閉鎖性海域を特定して、大気汚染防止法で硫黄酸化物と窒素酸化物、水質汚濁防止法(瀬戸内海については瀬戸内海環境保全特別措置法)でCOD(化学的酸素要求量)、窒素含有量、りん含有量について適用されています。
具体的には大気汚染物質については、大気拡散モデルに法の指定地域内の全発生源(工場、事業場、自動車、船舶、家庭など)からの汚染物質の個別の発生量と排出条件、及び高層を含めた気象条件等のデータを収集、整理して入力し、コンピュータシミュレーションによってその地域の発生源の状況と環境濃度の関係を説明しえるモデルを確立した後、環境基準が達成できる排出総量を算出して、これを各発生源に割り振る(現状排出量との差を削減させる)ことで行われます。この際、自動車については新車の単体規制の効果等を前提とし、中小工場や家庭などについてはその動向等を見込んで設定し、一定規模以上の工場・事業場(総量規制対象の「特定工場」という)については個々の工場等を単位に、@法対象施設の総原・燃料使用量、またはA汚染物質の排出量と現状着地濃度との関係、に応じた排出許容量を割り振ります。この特定工場の「総量規制基準」の式は大気汚染防止法施行規則第7条の3、同4に示されています。
水質汚濁物質については、閉鎖性海域の水質汚濁に影響する要因は河川等からの淡水や汚濁物質等の流入、有機物の内部生産・分解等、潮流による移動・拡散など複雑であるので大気汚染の総量規制とは異なり、その海域の水質拡散モデルを確立して環境基準を達成しえる汚濁物質の排出総量を算定するのは困難です。このため環境基準とは直接リンクさせず、法が指定する閉鎖性海域に流入する河川流域の人口(生活排水)や産業の動向、下水道整備の見通し、業種ごとの汚水等の処理技術の進展等の動向を踏まえ、また、改善効果を推定する水質シミュレーションを参考として総量削減目標量を定めて、これを達成するために一定規模以上の工場等に各々の許容排出量を業種等の区分に応じた1日あたりの「総量規制基準」として割り振って行われています。
この特定事業場の「総量規制基準」の式はCOD、窒素含有量、りん含有量について各々水質汚濁防止法施行規則第1条の5、同6、同7に示されています。
硫黄酸化物の総量規制は昭和49年から51年にかけて計15都府県24地域が指定され、窒素酸化物は昭和51年に3都府県3地域が指定されました。この結果、硫黄酸化物については昭和63年には一部の幹線道路沿道や火山周辺地域を除いて全国的に環境基準が達成されましたが、窒素酸化物については永く達成できず、平成17年にはじめて自動車排出ガス監視局を除く全国すべての一般環境監視局で環境基準が達成されました。
水質汚濁の総量規制は昭和54年から第1次総量規制としてCODについて東京湾、伊勢湾、瀬戸内海の3閉鎖性海域に流入する河川の20都府県の流域を指定地域として実施されていて、第5次の平成13年からは窒素、りんを追加して現在第6次の規制が実施されていますが、これらの地域では各項目とも未だ環境基準を達成しておりません。
なお、一例として大気汚染の総量規制基準のひとつである、燃料の使用量を基準とする規制式(第1号算式)2)を見ると、これは新増設がない既存の工場等に適用される単純なケースの式ですが、汚染物質の排出許容量Qは燃料使用能力Wに応じて大きくなりますが、1以下の指数bがあるために2次曲線となり、大工場ほど削減量を大きくしなければならないことになります。また、「K値規制」と異なり高煙突は有利には働きません。
係数a、bは地域の大気汚染モデルを用いて、コンピュータシミュレーションの結果から環境基準の達成が可能となるように、指定地域内の総量規制対象外の発生源の動向や気象、地形等を前提に特定工場の排出特性や対策技術の状況等を勘案して定めるとされています。
2) Q = a ・ Wb
Q : 硫黄酸化物または窒素酸化物の排出許容量 m3N/時
a : 削減目標が達成されるよう知事が定める定数
W : 特定工場等のすべてのばい煙発生施設の原・燃料の量 kl/時
b : 0.8〜1.0未満で知事が勘案して定める定数
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