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■福島徹二の環境豆知識
二酸化窒素の環境基準値が幅を持っていることについて 2
−二酸化窒素の環境基準の改定の経過等−
二酸化窒素の環境基準は、当初、昭和48年5月の環境庁告示第25号により「1時間値の1日平均値が0.02ppm以下であること」と定められました(旧環境基準)。この濃度はその後、昭和53年に改定された現在の環境基準である「同0.04ppmから0.06ppm以下」の1/2から1/3の厳しい基準です。当時は現在よりも大気汚染の状況は悪く、大都市部の大気汚染常時監視局ではこの基準を大きく超えており、地方の都市でも郊外部を除いてこの基準を満足する監視局は少ない状況でした。
このような環境基準と汚染状況の乖離が大きい中での環境基準の緩和は公害行政の後退であるとして、当時の革新自治体や住民団体などからの強い反発があり、「二酸化窒素に係る環境基準改訂の告示中止について」(東京都要請)や「二酸化窒素環境基準告示取消請求事件」などの裁判も起こされました。現在も一部の大都市や県の環境管理計画等で、二酸化窒素について独自の環境目標値・環境保全基準等として、日平均値もしくは年平均値を0.02ppm以下としている自治体がありますが、この旧環境基準の影響が残っているものと思われます。
○ 改定の経過と理由
旧環境基準は環境庁長官の諮問を受けて答申された、昭和47年6月の中央公害審議会の報告に基づき設定されたものですが、その後、内外における二酸化窒素の健康影響に関する科学的知見が著しく充実・蓄積したことから、環境庁長官は環境基準への「科学的判断」を加える必要があると判断し、中央公害審議会へ環境基準の基礎となる判断条件等について諮問しました。同審議会は、医学、公衆衛生及び測定に関する専門家からなる「判定条件等専門委員会」を大気部会に設置して、昭和52年5月から約1年にわたり49回の会合を重ね、翌年3月20日専門委員会報告を取りまとめ、同審議会は3月22日その内容を了承する旨の答申を行ったものです。
環境基準が改定された昭和53年7月に環境庁大気保全局長から都道府県知事・政令市市長宛に出された通達1)は、改定理由等について次のように述べています。
(通達の 1.改定の理由、2.二酸化窒素に係る環境上の条件について の要旨)
従来の環境基準は昭和47年までの限られた科学的知見を基として十分安全性を見込んで設定されたものであるが、公害対策基本法第9条第3項2)は環境基準については、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない、と規定している。このため中央公害対策審議会に対し、この数年格段に豊かになった二酸化窒素の健康影響に係る科学的知見に基づき、環境基準設定の基礎となる判定条件及び指針について純粋に学問的見地からの検討を依頼することとし、同項の趣旨にのっとり諮問した。
同審議会の答申は、二酸化窒素の生態影響に関する内外の最新の科学的知見を収集評価し、地域の人口集団の健康を適切に保護することを考慮して次の値を指針として提案した。
・短期暴露については、1時間暴露として0.1〜0.2ppm
・長期暴露については、種々の汚染物質を含む大気汚染の条件下において二酸化窒素を大気汚染の指標として着目した場合、年平均値として0.02〜0.03ppm
提案された指針は、疾病やその前兆とみなされる影響が見出されないだけでなく、さらにそれ以前の段階である健康な状態からの隔たりが見出せない状態に留意したものであり、健康の保護について十分な安全性を有するものである。環境庁は答申を最大限に尊重し、各方面の意見をも慎重に検討、考慮した結果、現在の環境基準を改定すべきであると判断したものである。
二酸化窒素に係る環境基準は、1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下と改定された。この環境基準は答申で示された判定条件及び指針が現在の時点における二酸化窒素の人の健康影響に関する最新・最善の科学的・専門的判断であり、またそれは法に規定する人の健康を保護する上で維持されることが望ましい水準を示すものと判断し、答申で示された幅を持った指針に即して改定されたものである。
環境基準は、従前と同様に1時間値の1日平均値を用いたが、1日平均値の年間98%値と年平均値は高い関連性があり、1日平均値で定められた環境基準0.04〜0.06ppmは年平均値0.02〜0.03ppmにおおむね相当するものであり、短期指針の1時間値0.1〜0.2ppmをも高い確率で確保することができるものである。 |
答申された指針が幅を持っているのは、前記の専門委員会報告によると「大気汚染の暴露は、比較的に濃度の高い大気汚染物質への短時間暴露と低濃度の長期間暴露とに分けられる」また、「人の健康影響に関する知見のうち、特に注目した報告」として挙げられている14の文献を見ると、大きく、数時間程度の暴露実験結果、と数十〜数百日の暴露実験結果等及び年平均値が把握されている地域での疫学調査結果とに分かれており、中間の1日程度の文献は見当たりません。さらに、これらの文献が示す健康影響濃度にはバラツキがあることから、人の健康影響に関して日平均値として幅のない濃度を示さなかったことは当然だと思われます。また、この答申の中には0.04ppmや0.06ppmという数字はありません。これは環境庁が、答申された短期暴露、長期暴露という指針がこのままでは行政の基準としては“使いづらい”ため、二酸化窒素の年平均値と日平均値との関係等から行政的判断により答申の濃度の幅は生かして日平均値として改定したものと考えられます。
この年平均値と日平均値との関係を説明すると、大気汚染濃度は気温逆転層の発生や暖房などの影響を受ける冬季に高いので、冬季に高濃度が発生する日が環境基準以下の濃度であれば他の季節の日平均濃度は低くなるので、結果、年平均値は環境基準の濃度より低くなります。審議会の専門委員会報告では、昭和48年〜50年の大気汚染常時監視局1,114局での二酸化窒素濃度の年平均値Yと年間365個の各々の日平均値の98%値3)Xとは、Y=0.46X+0.13 r=0.919 の関係があるとしています。つまり、両者はほぼ1/2の関係があるので、年平均値0.02ppm〜0.03ppmは日平均値の98%値が0.04ppm〜0.06ppmに等しいことになります(二酸化窒素の環境基準の長期的評価での適否は年間の日平均値の98%値で行われる)。
なお、答申された長期指針の年平均値0.02ppm〜0.03ppmと短期指針の0.1〜0.2ppmは環境アセスメントなどで、予測された二酸化窒素濃度の評価に用いられることがあります。大気汚染の拡散モデルで1日平均値を直接予測することは精度等に問題があるので、年平均値を予測して長期指針と、また、短時間の気象条件を設定して1時間値を予測し短期指針と比較し、これらに必要によりバックグランド濃度を加えた結果が指針の範囲内または以下であれば影響は少ないと評価するものです。
1) 二酸化窒素に係る環境基準の改定について 昭和53年7月17日 環大企第262号
2) 著者注,現在の環境基本法第16条とほぼ同じ、第3項は同文
3) 1年間の日平均値を高い順に並べて、低いほうから98%に当たる値。365個の日平均値が
あるときは、365×98%≒358であるので、低いほうから358番目に当たる日平均値。
これは逆に高いほうから7日分の日平均値を除外して、高いほうから8番目の日平均値に
当たると考えてよい。
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